たけしの忙中閑話

若大将

先日、初めて加山雄三さんのコンサートを観に行った。これまで、幾度かチャレンジしたことがあったのだが、当日になって都合が悪くなることが続いて、とうとう実現しないままだったのだ。その意味では長い間、待ちに待ったコンサートだった。

この日のコンサートは加山さんの80歳を記念してのものだった。あの「若大将」がもうすぐ傘寿を迎えるということは以前から知っていた。それだけに、誠に不謹慎で失敬なことながら、「生きていいるうちにぜひ一度この目で見てみたい」などと思っていたのだった。

が、そんな心配がまるで見当違いだったことをコンサートを観ていて思い知らされた。ステージに登場した加山さんはとても80歳とは見えないほどに実に若々しく、驚くほどにエネルギッシュで、途中、休憩することも水を飲むこともなく、数十曲を歌いまくり、ギターを軽やかに弾き、ピアノを奏で、その上、味のあるトークをふんだんに聴かせてくれた。

正直、これまで行ったコンサートの中でもっとも楽しめたコンサートだった。なぜなら、そのほとんどの曲を口ずさむことができたからだ。いささか大袈裟に言うならば、加山雄三という人が自分の人生の一部を形作っていたということが身に沁みてわかったと言ってもいい。むろん、会場を埋め尽くしていた数千人の自分よりもさらに年齢が上の世代の人たちも、きっと同じように感じたに違いない。

加山さんは僕が小学校から中学校の時にかけて、「若大将シリーズ」という映画で一世を風靡した、文字通りの国民的大スターだった(今でもそうだが)。自分の故郷には当時、数軒しか映画館がなかったのだが(今は一軒しかない)、中学生になった頃、親に連れていかれて初めて観たのが、「若大将シリーズ」だった。時折、再放送されているのを観てみると、恥ずかしいほどに純情で清らかなロマンス映画ではあるのだが、当時、まだ初々しい中学生だった自分にとってはドキドキしながら垣間見た「大人の世界」でもあった。

以降、「若大将」にすっかり魅せられてしまい、シリーズ新作がくるたびに観にいった。加山さん演じる主人公の「田沼雄一」は、なんでもこなすことができるスーパーマンだ。泳ぎもすれば、走りもする。スキーもやれば、ヨットも操る。エレキギターも弾ければピアノも奏でる。そして、歌う。しかもそれらの曲は全部、加山さんの自作だ。役柄として無理やりにそう作り上げていたというのではなく、実際に加山さん自身がスポーツ万能の映画俳優であり、日本のシンガーソングライター(当時はそんな言葉もなかったが)の草分けでもあったのだ。

しかも、その曲たるや、極め付きのセリフつきだ。「幸せだなぁ。。僕は君といる時が一番幸せなんだ。僕は、、死ぬまで君を離さないぞ。。いいだろ?」「寂しいなぁ。。君がいないとつまんねぇや。僕は君と離れてらんないんだ。。愛してる」「夢みたいだなぁ。。君のような素敵な人に会えるなんて。いつまでも僕のそばにいてくれよ。いいだろ? ね。」なんて、、当時、誰が真顔で言えたろうか(笑)。ちなみに、郷里の先輩、南こうせつさんは高校生の頃に加山さんの歌を聴いて「日本にもこんな歌をつくる人が、、いるんだっ!」と強く衝撃を受け、本格的にミュージシャンを志したのだという。

その加山さんに当時の年頃の乙女たちが夢中になるのも無理はなかった。いや、憧れたのは決して乙女たちばかりではない。子ども達も青年たちも、少し年のいった中年のおじさん達も、石原裕次郎や小林旭や松方弘樹といった少し影のある役回りで一世を風靡していたスターたちに憧れるのとはまた違った意味で、「ああ、あの若大将のように何でもできる爽やかで格好いい男になりたい」と、羨望の眼差しを向けたのだった。

引き立て役を演じる田中邦衛さんの「青大将」の演技もまた素晴らしかった。田中さんが演じたのは、星由里子さんが扮する「澄子さん」というマドンナと「若大将」の間に、いつも「横恋慕」する役だった。「若大将」が麻布の老舗すき焼きやの息子で、どこから見ても模範的な好青年であるのに対し、「青大将」は大金持ちの成金社長の奔放なドラ息子、という対比が実にわかりやすくて面白かったのだが、田中邦衛さんはその役柄を絵に描いたように見事に演じきっていた。「青大将」がいたからこそ、「若大将」の存在が際立ったのだと言っていい。

コンサート中に、とても印象深いトークがあった。今まで知らなかったが、加山さんの曲の大半の詩は今は亡き岩谷時子さんのものだそうだ。「このコンサートを企画するために、かつての楽譜を引っ張り出していたら、その中にまだ曲になっていなかった岩谷さんの詩がひとつ見つかったんです。その時、この詩はきっと岩谷さんが天国から僕のお祝いに贈ってくれたんだと思いました。岩谷さんとの出会いがなかったら、今の僕は無い。それで今日、その詩に合わせて曲を作ってきました」。加山さんはそう言ってまだ誰も聴いたことがない「新曲」を心を込めて歌ってくれた。「感謝なくして努力なし。努力なくして成功なし。」そのことをしみじみと感じたひとこまだった。

ここまで書いてきてふと思い出したことがある。僕の郷里では当時、「若大将シリーズ」は必ずクレイジーキャッツの映画との二本立てで上映されていたのだ。したがって、当時の僕は「若大将シリーズ」で加山さんの「君といつまでも」を聴いたあと、続けて「日本一の無責任男」という映画で、植木等さんの「金のない奴は俺んとこに来い。俺もないけど、心配するな。スーイスイスイダララッター、スラスラスイスイスイ!そ〜のうち、なんとかな〜るだろぉ〜」というのを聴いていたことになる。

それはそれで実に面白く、僕の大きな笑い声は映画館中に響き渡って、たとえ暗闇の中であっても、僕が来ていることがすぐに同級生にばれたりしていたのだったが、今になって考えてみれば、、、実に台無しではないか! 僕は毎回、「日本一格好いい男」と「日本一無責任な男」を必ずセットで観ていたことになる。そのことが今の自分にいったいどういう影響を及ぼしているのか、、と考えると、思わず戦慄せずにはいられない。ううむ、、それがせいで、とうとう「若大将」になりきれなかったのかもしれぬ。。

ともあれ、本当にこれまで経験したことがないほどに楽しく、心弾んだコンサートだった。加山さんに感謝するほかない。加山雄三さんは80歳を越えてなおエネルギッシュだ。これから最新のエコ装備を施した「新光進丸」で世界一周の旅に出る計画があるのだという。「永遠の若大将」の益々のご健勝と一層のご活躍を心から祈るばかりである。

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