忙中閑話

忙中閑話「リラへのレクイエム」

2007.11.13

リラ。夕べは東京の宿舎から、既に冷たくなって僕の自宅の部屋に眠っているという君にお線香をあげました。

 

君と過ごしてきた懐かしい日々のことを思い出していたら、自然と涙がこぼれたよ。帰ってあげられずにすまないね。もう一度、この手で君を撫でてあげたかった。

 

リラ。君が我が家に来たのは、いや、僕がつれて帰ってきたのは今から15年前だったね。あの時、僕は落選したばかりで、心身ともに弱っていた。だから、もう一度、心も体も鍛え直そうと思っていたんだ。朝晩、運動をともにしてくれる相棒が欲しかった。それで、ラブラドールばかりを飼っている支持者に頼んで君をもらいにいったんだ。

 

ラブラドールは多産系だ。君の兄弟姉妹は10匹ほどいたよね。誰もがお母さんのおっぱいにしがみついていたり、兄弟でじゃれあっていたのに、君は一人離れた場所でぽつねんとしていた。それでもすぐに君が僕の目にとまったのは君が図抜けて色白だったからだ。そして誰よりも大きくてつぶらな瞳をしていたね。

 

最初から「女の子がいい」と思っていた。それも気立ての優しい子がね。僕は迷わず君のところへ行って君を抱きあげた。そしたら、最初のキスをしてくれたね。子犬を飼うのは子どもの時以来だったので、僕は喜び勇んで君をうちへ連れて帰ったのだけれども、誰にも言ってなかったので、家族にえらくびっくりされたのを覚えている。

 

それから君と僕の、いや、僕たちの生活が始まった。君の最初の家は山の上のほうだったので、毎日の坂道の散歩がきつかったね。まだ小さかった君にはつらかったかもしれないが、毎日、朝晩、かなり急勾配の坂道を一緒に登ったり降りたりしたよね。雨の日も風の日も、だ。でも、お陰で僕の体力は徐々に回復し、そして、それに伴って気力のほうもだんだんと取り戻していくことができたんだよ。

 

それから、中津に引っ越したよね。ちょっと手狭な家で庭も狭かったけれど、家の前の道路が僕と君の遊び場だった。あの頃はもっぱらボール遊びだったよな。僕がテニスボールを遠くへ転がすと君は一目散に駆けていって咥えてはまた全速力で舞い戻ってきた。そして僕の股の下を駆け抜けたところで必ず振り返り、決まってとても得意そうな顔をしていたね。

 

その頃から気性の優しい君はご近所の人気者だった。僕以上に君をかわいがってくれる人もできたよね。「ジャーキーおじさん」って覚えてるかい? いつも通りがかりに君と遊んでくれておいしいジャーキーをくれた、あのおじさんだよ。あの人にも君がいなくなったことを知らせないといけないね。きっと悲しむだろうけど、ずいぶんとかわいがってもらったからね。

 

あの頃、君の「失踪事件」があった。覚えてるかい? 僕とジャーキーおじさんは必死になって君を探したがなかなか見つからなくて途方にくれていた。そしたら、田んぼの中からひょこりと君が出てきたよね。そして、僕らのほうへ向かって駆け寄ってきたと思ったら、君はなんと僕より先にジャーキーおじさんに飛びついたんだぜ。あの時はがっかりしたよなぁ。。。飼い主の面目丸つぶれだった。ハハハ。懐かしい思い出だね。

 

そこで三年ほど暮らしたあと、別府に戻ったね。それからは別府公園が僕たちの散歩コースとなった。広々としていい公園だよね。毎朝、緑と季節季節の花でいっぱいの公園を君と一周したもんだ。夏になると「暑がり」、というか「水好き」の君は必ず池の中に入って水浴びをしていたね。あんまり水がきれいじゃないんで心配したけど、君はおかまいなしだった。泳ぐのが好きで、そして教えられもしていないのに、上手だったね。もっと広い海で思いっきり泳がせてあげればよかったと思ってるよ。

 

僕が国会に復帰してからは君との散歩の数もおのずから減っていった。その分、お義父さんが代わりをやってくれた。お義父さんは僕以上に君をかわいがってくれたね。だんだんと僕よりお義父さんのほうがよくなったんじゃないかな。僕はそのことが少しだけ寂しかったが、お義父さんが君の面倒をしっかり見てくれるんで、お陰で安心して仕事に専念することができた。お互いにお義父さんに感謝しないといけないね。

 

リラ。詮無いことだが僕は君に二つ、謝っておきたいことがある。ひとつは、君が来て間もない頃のことだ。まだ傷心が癒えてなかった僕はある時、何を間違ったかまだ幼い君に思わず八つ当たりしたことがあったよね。僕は言うことを聞いてくれない君をこともあろうに放り投げてしまった。今でもあのときの自分が信じられないし、ひどく嫌悪している。そのせいで君は後ろ足を骨折してしまった。二週間ほども入院させてしまったね。そのときに入れた金具がずっとそのままだったね。本当にごめんね。どうか許しておくれ。

 

それから、もうひとつ。それは、とうとう君をお母さんにしてあげられなかったことだ。最初は「悪い虫」がついてもいけないと思ってね。それでお医者さんに相談して避妊のためのインプラントを試したんだ。「薬の効き目が切れたら、子どもが産めるようになります」って言われたからね。けれども、どういうわけか、君の「女性」は復活せず、ついに妊娠できない体になってしまった。

 

お医者さんを責めてるんじゃないよ。僕の判断の誤りだった。君はきっと美しい子どもたちをたくさん生んでとてもいいお母さんになっただろうにね。それを思うと今でも口惜しい。本当に申し訳なかった。こうやって君がいなくなってみると、君の血を引いた子どもたちがどこかに生きていてくれればなぁと、君だってきっとそう思ってるだろうなぁと、心からすまなく思ってるよ。許しておくれ。

 

でもね、リラ。僕は本当に君に感謝しているんだ。君は僕が一番苦しい時に家族の一員として僕を支えてくれた。君といるとどんなに癒されたことか。嫌なことがあっても、辛いことがあっても、君と歩いていると重苦しい心も次第に晴れていった。君との毎朝の散歩を通じて僕はその日一日に立ち向かうために心身を整えることができたんだ。何度もくだらない愚痴を聞いてもらったよね。もちろん、君は何も言わなかったけれども、いつもその大きな瞳でじっと見つめ返してくれた。もうそれだけで僕には十分だったよ。

 

リラ。どうか安らかに眠っておくれ。ママが僕の帽子と手袋を添えてくれたんだって? どうか僕が行くまで心行くまま天国の花園を駆け回っておいておくれ。そしていつかまた一緒に散歩しよう。そのときはもう永遠に一緒だからね。いや、そうか、またお義父さんに先を越されちゃうかな。。。ハハハ。でもそれでもいいや。またみんな楽しく一緒に暮らそうね。

 

リラ。君は幸せだったかい? 十分なことができなかったけど、みんな、君のことが大好きだった。どうかそれだけは覚えておいておくれ。

 

さようなら、リラ。君のことは決して忘れない。本当にありがとう。

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