忙中閑話

忙中閑話「入院」

2006.10.02

初めて手術なるものを経験した。要は骨の修理である。実はここ数年、腰痛を抱えていたのだ。特段、仕事や生活に困るというほどではなかったが、長く立っていたり歩いたりすると次第に腰に鈍痛が生じるようになり、しかも年々その症状がひどくなってきていた。これからますます忙しくなるだろうに腰に爆弾を抱えたままでは心配で仕方がない。思い切ってこの夏の間に治してしまおうと思い立ったのである。

 

小生、実は子どもの頃に柔道をやっていて腰を痛めたことがあった。当時の診立てでは「脊椎分離症」ということだったが、子どものことでもあるし、そのうち治るだろうと言われてほっておいた。どうもそれが治っていなかったらしい。それから約40年後の診断によればそれがさらに「脊椎分離すべり症」なるものに進化(?)していて腰痛の原因になっているとのことだった。

 

手術の内容は「腰椎固定術」といって、まずは腰を切開して「分離」した骨を削り取り、さらにそれを加工して関節の間に詰め込む。さらに小指くらいのチタン製のボルトで腰椎を固定してできあがり、ということだった。「ウウム・・・腰がターミネーター状態になるのか。。。」と一瞬迷いはしたが、最新鋭の透視装置で分離した骨の状態を見せられた以上、もはや外科手術によって根本原因を解消する以外にはないと観念したのだった。

 

とはいえ、「ボルトを入れる」と聞いてまっさきに心配したのが飛行機に乗るときのことだ。最近はテロ対策とやらでやたらと空港でのチェックが厳しい。小生は年に100回近くは搭乗するからして、そのたんびに金属反応が出たのではたまったものではない。第一、「お客さん、出してください!」と言われても出せやしない。お医者さんにそのことを聞いたら「岩屋さん、大丈夫です。これは金属探知機に反応しない素材を使ってますから」とのことだったので、いよいよ覚悟を決めた。

 

手術も初めてなら、全身麻酔も生まれて初めてである。正直、怖かったがマスクをあてられて二、三回ほど深呼吸をしたらもうわからなくなってしまった。気がついたら病室のベッドの上だった。さすがに傷が痛い。当初は寝返りも一人では打てない状態で、そのたびにベッドのブザーを押しては看護師さんに来てもらっていた。小生は体が大きいので看護師さんも三人がかりでひっくり返すというようなことになる。「なるほど、要介護というのはこういう状態か」と実感した。

 

お医者さんからは「退院まで一ヶ月はみといてくださいよ」と言われた。しかし、こればかりは言うことを聞いているわけにはいかない。既に約束している日程もたくさんあったし、総裁選も近づいてきている。そんなにゆっくりしてはいられない。「なぁに、体力には自信がある。二週間で退院してみせるさ」などと思い上がったのが間違いだったとあとで思い知らされることになる。

 

二週間で退院するためには人の倍のスピードでリハビリをこなさなければいけない。そこで、小生、抜糸する前から病院の周りを朝となく昼となく歩き回ったのである。たしかに傷は痛かった。しかし、「この痛さに耐えてこそ早く退院できるのだ」と思い込み、日に日にそのペースを上げていったのである。「当分はねじったりひねったりは駄目ですよ」とも言われていたが、そんなこともおかまいなし。ウンウン唸りながら、ストレッチなどやっていた。

 

そんなわけで実際に二週間後にはいったんはめでたく(?)退院できたのである。「こりゃ今までの最短記録ですね。新幹線並み、いや、ジェット機並みですよ」などと言われていい気になっていたが、異変が起こったのは退院した翌朝からである。前の晩にさっそく後援会婦人部の会合に出席してカラオケなどに興じ、二週間ぶりに飲んだ酒の勢いにまかせて腰ふりダンスなどをしてみせたのがいけなかった。目が覚めて起きようとすると腰に激痛が走ってまったく身動きすらできない状態におちいったのである。

 

「こりゃいかん!」と慌てて主治医に電話したら、「やっぱり無理だったんですねぇ。。。すいませんがもう一度、病院に戻ってください」ってわけで再入院するはめとなった。「腰ふりダンス」のことは叱られると思って黙っていたが、どうもそれが原因で髄液が漏れ出していたらしい。そのせいか頭痛もひどかった。「もう一度、切りますよ」と言われたときにはガックリきたが、もうジタバタしてもしょうがない。今度はちゃんと言うことを聞いて慎重に回復に努めようと観念した。

 

そういうわけで二回目の入院では我ながら「模範的患者」として過ごしたと思う。そのせいあって三週間足らずで退院できたのだったが、なんのことはない、やっぱり最初に言われたとおりに一ヶ月を要したことになる。無茶をしたせいで一週間余計に入院してしまったということだ。やっぱり、医者の言うことは聞くものでである。これが「入院」の最大の教訓だ。

 

お陰で今は順調に回復に向かっている。朝起きてから油が回るまでの30分くらいはモタモタするものの、動き出してからは仕事にも生活にも支障はない。当分、コルセットのお世話にならなければならないが、腹回りをすっきりさせるのにはかえって好都合だ。入院生活を通じて5キロほど痩せたのでなんとかこれをキープしたいと思っている。

ともあれ、初めて「患者」の立場に身を置いてみたことでいろんな意味でいい勉強をさせてもらった。ドクターはじめ、お世話になった皆さんに感謝、感謝である。

 

というわけで、岩屋たけしの腰はボルトでしっかり強化されたという次第である。これから何があっても決して「腰折れ」することなどありませんぞ。どうぞご安心あれ!

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