お知らせ

東洋経済オンライン・インタビュー記事

2026.06.22

「売国」と590万回も叩かれた岩屋毅議員が激白、ネットのデマに歪められる民主主義の危機に「保守政治家」が取るべき道

 

総務省が公表した「令和7年通信利用動向調査の結果」によると、インターネットの利用目的・用途として昨年8月末現在で82.3%が「SNSの利用」と回答(複数)しており、情報やコミュニケーションの多くをネットに依存していることがうかがえる。その一方で、匿名性による行きすぎた表現、誹謗中傷行為も少なくない。昨年度、違法・有害情報相談センターに寄せられた相談件数は6715件に及び、同センターが2009年に設立されて以降で最多を記録した。

政治や選挙では、24年からその影響が大きくなった。今年2月の衆院選では、中道改革連合の岡田克也氏らについて執拗なデマが流され、多くのベテランが次々と落選。自民党も石破茂政権で外相を務めた岩屋毅氏が、確認できた特定のプラットフォームだけで590万回も「日本より中国を優先」や「売国」といった誹謗中傷内容が書き込まれたという。

そもそも高市早苗首相自身が誹謗中傷動画疑惑のど真ん中にいる。いったい民主主義はどうなるのか、そして日本の将来は——。今年の衆院選で苦しい戦いを勝ち抜いた岩屋氏に、話を聞いた。

――ここ近年、政治対立が激化しているという印象が否めません。インターネットがそれを加速しているのではないですか。

 

【岩屋】ネットと民主主義について、私はかなり期待していたのです。大分県議会議員になったばかりの頃に県知事だった平松守彦さんが、「大分パソコン通信アマチュア研究協会(COARA)」を立ち上げたことをきっかけに、私もパソコン通信で有権者と意見交換を始めました。

 

それまで有権者との意見交換は、直接会って話をするか、電話か手紙しかありませんでした。これからは時間と空間を超えてやり取りができる時代になったのだと、感動したことを覚えています。

 

ですから、インターネットは日本の民主主義を成熟させ、深化させるものだと思っていたのです。しかし、ここ数年の傾向を見ると、ネットの中で政治を語る際には非常に攻撃的で乱暴になるという「負」の部分が強く出てしまっている。これは強く懸念すべき問題です。

 

しかもネットを通じた伝播力は、速く強い。私は県議選も含めてこれまで14回の選挙を経験しましたが、今回の衆院選ほど激しく誹謗中傷されたことはありませんでした。「岩屋を退治する」などという表現まで飛び交ったことには、非常にショックを受けました。

 

選挙とは民主主義の実現のための手段です。当然のことながら最低限のマナーが求められ、新人の頃には先輩から「絶対に相手候補を誹謗中傷してはいけない」と厳しく教え込まれたものです。昨今の状況を見ると、もはや選挙自体が異質なものになり果ててしまったのかと感じてしまいます。

 

――「国益を守る」という概念も変わっているのではないでしょうか。防衛相や外相を務められた岩屋さんには、「何が国益か」について広い知見もある。にもかかわらず、今年の衆院選ではそれを一切無視するような「媚中」などといった侮辱的な言葉が散見された。しかも、かつて自民党を支持していたと見られていた層からです。

 

【岩屋】自民党はこれまで公明党と連立を組んできました。その意味で自公政権は、バランスが取れた中道保守政権だったと思います。

ですが、自民党がほぼ政権を担ってきたここ30年間で、日本の国力は低下してしまった。そうした不満が鬱積し、自民党よりかなり右、あるいは左といった勢力の出現につながっていったのだと思います。かつての自民党の支持層の一部も、右傾化したのでしょう。

そうした層の票を取り戻そうと、自民党が右旋回したことは否定できないでしょう。しかし、それでは「本来の保守とは何か」を見失ってしまいます。伝統を尊重し、秩序を維持し、つねに全体のバランスに留意することこそ、保守政治家の本分だからです。

 

私は石破政権で外相に就任すると、これまでどおりに日米同盟を基軸にして、全方位外交を展開しました。25年1月のドナルド・トランプ大統領の就任式に日本の外相として初めて出席するなど、日本外交の基軸である日米関係の進展のために汗をかきました。

また近隣諸国についても、日本は東アジアの平和と安定に寄与できなければ世界に向かってものが言えませんから、中韓との関係にはとくに配慮しました。日韓関係は岸田文雄政権のときにかなり改善していましたが、24年12月には当時の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が戒厳令を発令する騒ぎが勃発しました。私はその直後に訪韓し、日韓関係に影響が出ないように細心の注意を払いました。

 

――中国についてはどうですか。昨年11月7日の衆院予算委員会での高市首相の「台湾有事発言」で、現在の日中関係は過去最悪の状況です。

 

【岩屋】高市首相の発言は政府の見解を十分に消化したうえでのものではなく、質問に咄嗟に反応する形で発せられたものだと思います。その後、高市首相は事実上の訂正を行っていますし、わが国の台湾に対する方針は変わっていないと明確に示しています。

だとすれば、対中関係はできるだけハイレベルの対話を通じて誤解を解き、これまで両国の首脳が確認してきた「戦略的互恵関係」に早期に立ち戻ることが必要です。

 

24年11月15日にペルーで石破・習近平会談が行われ、そこで「戦略的互恵関係」がしっかりと確認されました。私はカウンターパートの王毅外相とできるだけ早く会ったほうがいいと思い、翌12月に北京に飛びました。

 

当時の日中間には、反スパイ法による日本人ビジネスマンの拘束や蘇州での日本人学校のスクールバス襲撃事件など、さまざまな懸案がありました。それでも問題を1つずつ解決し、一緒にできることを増やしていこうとの方針で、会談に臨みました。

その甲斐あって、中国がわが国のEEZ(排他的経済水域)内に設置したブイも撤去されましたし、東日本大震災以降、差し止められていた日本人の短期ビザなし渡航も再開された。輸入禁止になっていた海産物も輸入再開手続きが開始され、それを肉や米に広げていこうとも話し合っていました。

日中関係が進もうとしていただけに、今日の状況はとても残念です。「対話のドアは開かれている」と言うだけではなく、日本側から積極的に事態の改善に取り組んでほしいと思います。

 

――しかし中国との対立を煽ることで、政治的優位性を維持しようという勢力もあることは事実です。

 

【岩屋】政治的対立や社会の分断は、ある意味で世界的に見られる傾向です。グローバリズムや新自由主義、あるいは移民という存在に対する反発が背景にあると言われています。

グローバリズムや新自由主義で格差が生じ、それに対するいら立ちが底流にあります。2度にわたってトランプ政権が誕生した原動力とも言われていますが、わが国においてもそれに近い風潮が感じられます。

政治はそういった声に真摯に向き合い、そうした人々の不満を解消していくことができるのかを考えないといけないのであって、そこに油を注ぎ、政治的エネルギーに変えようという試みはすべきではありません。政治はあくまでもこれからの日本の国づくり、日本が目指すべきビジョンを真剣に考え、国民に提示していくという方向を目指すべきです。

日本の民主主義や選挙がネット内の虚像や捏造された情報によって左右されるという危険性もあります。これは民主主義の大きな危機といえます。

 

というのも、アルゴリズムによって個人に伝わる情報が操作され、過激な表現で注意を引けば経済的価値が得られる「アテンション・エコノミー」の世界では、事実かどうかは重要ではないからです。むしろ、ウソを並べ立てて多くの人の関心を引くことこそ、重要になっています。

これは相手に敬意を抱き、ファクトに基づき真摯に議論するという民主主義の基本に反します。とりわけ選挙では、デマやフェイクニュースで民意が歪められることがあってはなりません。

憲法が保障する思想の自由や表現の自由に最大限の配慮は必要ですが、せめて選挙期間中だけでも諸外国の事例にも学んで、一定の合理的な規制があってしかるべきだと思います。

 

――発信者の責任を明らかにする必要があるということですね。

 

【岩屋】ネットの匿名性には、自分の意見を周囲にはばからずに率直に述べることができるというプラスの面もあります。一方で、自分の身元がわからないことをいいことに、単に罵詈雑言を投げつけてしまうというマイナスの面もあります。

それについては罰則を与えるというよりも、まずは国民全体がネットに対するリテラシーを身につけることで、マイナスを最小化するしかないのではないかと思うのです。

 

こうした傾向が主流になっていくと、ネット社会の中で巨大な仮想権力が生まれ、健全な発言を委縮させかねません。実際に「売国奴」や「非国民」といった、すでに死語になったはずの言葉が復活し、横行するといった状況すら出現しています。そういった傾向が加速すれば、民主主義の土台を崩していきかねません。

最近では、先人たちが積み重ねてきた英知に対するリスペクトに欠けた姿勢も散見されるようになりました。刺激的言質に踊らされ、一時的な感情的なエネルギーに政治が動かされていけば、国の将来が大きく歪められかねません。

分断や対立を、粘り強い対話によって統合につなげていく――。それこそが保守なのだと私は思います。

 

お知らせ