「処理水の海洋放出」考。
政府は福島第一原発の敷地内に溜まっている処理水をニ年後から、国際標準よりもさらに低い基準にまで希釈して海洋に放出する方針を固めました。
廃炉へ向けての作業が始まってからのこの10年間、いつかは判断しなければならなかった問題に、ようやくにして結論を出したことになります。
現地からは様々な不安や反対の声が上がっています。これまでの風評被害を耐えに耐え抜いて、ようやくそれが収まりかかった段階での今回の政府の決定です。反発が伴うことは、当然でありましょう。政府はこの現地の声をまずはしかと受け止めてなくてはならないと思います。
しかし、廃炉までに30年はかかると予想されている中、処理水を溜め続け、保管し続けるという選択が不可能であることもまた事実です。この問題に結論を出さずに放置することは、結果的に「復興」を妨げることになる。政府はそういう判断の下に、今回、苦渋の決断を行なったということだと理解しています。
そのように理解した上で、政府及び東京電力には、以下のことを強く求めたいと思います。
1 処理水の海洋放出が始まるまでの二年間の間に、現地関係者に対して丁寧な説明と話し合いを実施し、ご理解を得るために全力を尽くすこと。
2 処理水が国際標準をはるかに下回る安全なレベルまで希釈されて放出されることを、全国民に対してはもちろん、国際社会に対して十分に説明を尽くすこと。
3 放出開始後も適切に海洋状況をモニターし、透明性を持って結果の開示をおこなうとともに、問題が生じた場合には計画を一時停止し、見直しをおこなうこと。
4 風評被害防止のためのあらゆる対策に全力を尽くした上で、仮に被害が発生した場合には十分な賠償の措置を取ること。
政府や事業者の東電が以上の努力をすべきことは当然ですが、その上で、福島・東北の復興を支えていくことは、我々一人一人の国民にとっての共通の課題でもあると考えます。根拠のない風評が現地の人々を苦しめることが決してないように、皆で心していかねばならないと思います。
順調に行っても、この処理水の放出には30年近い時間がかかるとされています。廃炉だけでも30年と30兆円。それに加えての今回の処理水の処分。以前にも申し上げましたが、およそ原発事故以上の深刻な事故はこの世にないと言わねばなりません。
そのことを胸に刻んだ上で、これからのエネルギー問題を考えていかなければならないと、あらためて痛感しているところです。